2012年11月3日土曜日

召使

監督:ジョセフ・ロージー

なんちゅー怪作(笑)

オープニング、枯れ木が冬の香りをしたためる美しい通りを映したカメラは、緩やかに反転して、こちらに歩いてくるダーク・ボガードを捉え、そのまま彼を追う。ああ、極めてシンプルでありながら、まさに「映画の時間」がここに定着している。このままこの世界にどっぷりと浸かりたい。
ダーク・ボガードが家に入っていく一連のシークエンスの何と無駄なカメラワーク(笑)しかしイチイチがカッコいい。美しい、流麗なカメラワークだ。

流麗なカメラワークは、ジェームズ・フォックスがバーでウェンディ・クレイグを口説くシーンでも発揮される事だろう。そうしてあまりにも「当然のように」ウェンディ・クレイグを口説き落としたジェームズ・フォックスが、そのウェンディと一夜を共にするシーンは、まず外側から邸宅を捉え、ゆっくり下降する美しい雪景色を挟んで、全く同じように下降するカメラワークでもって、床に寝そべる二人を捉える。ああ、何て素晴らしい呼吸、リズム。

ダーク・ボガード、ジェームズ・フォックス、ウェンディ・クレイグが邸宅で一同に会するあたりから、映画のリズムが変わる。それは鏡を介して三人を捉えた歪みまくったショットで予感されるだろう。
そして考えてみれば、我々はこのダーク・ボガード演じる召使いの素性をまるで知らない事に気づく。待て、考えてみればそもそもこのDVDはサスペンス・コーナーに置いてあったのではなかったか。という事は、このダーク・ボガードは何かを企んでいるのだろうか。。。

あるいは、公衆電話でのダーク・ボガードは、まるで召使いとは思えぬツワモノの風情だ。
公衆電話を待つ女たちに「ビッチ!」とまで吐き捨てる。


関係ないが、ジェームズ・フォックスとウェンディ・クレイグが、富豪の老夫婦の家で会話をするシーン。「ポンチョって?」、「南米のカウボーイだけど?」、「え、ポンチョって上につけるやつじゃなくて?」、「は?何の?」、「だからカウボーイの」、「それはマントでしょ」、「ああそうなの」、、、、何だこの会話は(笑)
だがこのわっけのわからない会話も、最初に4人を捉えたフルショット、次いでお互いの夫婦を捉えたローアングルのショットが交互が続くあたりで、見事に引き込まれてしまう。



さて、サラ・マイルズが新たにやってくるシーンでは、ジェームズ・フォックスとウェンディ・クレイグのレストランでの食事とその周辺の客達の様子を映したショットと、ダーク・ボガードがサラ・マイルズを迎えてタクシーに乗るショットが平行モンタージュで映されるわけだが、もうこれも何で平行モンタージュなのかまるでわからぬ。
しかしレストランでの演出の素晴らしさには舌を巻く。フォックス=クレイグの会話を中心としながらも(この会話も意味不明に深刻(笑))、彼らを奥で捉えながら周辺の客の会話も見せてくれる。別にストーリー上は何の意味もないこれらの人々であるが、いやいや、こういうのを見せてくれるのが良質な映画というものだ。隣り合って座るオッサンとアイリッシュのコンビなんて最高じゃないか。


さてさて、サラ・マイルズとジェームズ・フォックスが恋に落ちるシーンの何たる悪ふざけっぷり!ポタポタたれる水道水の音が部屋に響き渡り、仮にもメイドであるマイルズが、「暑いわ~」とか言いながら机の上に座ってセクシーポーズを取るんだから、もう何でもアリっすね!

この後のシーンで、ダーク・ボガードが酒を買いにいってる間にフォックスとマイルズが行為に及ぶシーンがあるが、ここのシーン、廊下で抱き合う二人の姿が、画面奥の廊下の鏡に映り込み、手前には二人の重なり合った手が壁際からはみ出て見える。このショットが絶品。この映画で一番好きなショットだ。

そろそろ書くのも面倒になってきた。なぜって、これはもう見てもらうしかないからだ。最後の方はどこまで本気なんだかわからないのだが、しかしハチャメチャに面白い。
個性豊かな俳優、美しい照明、なめらかなカメラワーク、そしてムーディなジャズがあれば、何をしても映画になるのだ、という高らかな宣言。いや、素晴らしい。






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