2022年12月29日木曜日

シャンドライの恋

 監督:ベルナルド・ベルトルッチ

主演:タンディ・ニュートン

冒頭はアフリカでの悲劇の描写。特段の台詞はなく、独裁者のものと思しきポスターを貼る作業、怒りを込めた歌、学校での突然の出来事。タンディ・ニュートンが空を見上げるアクションからローマへと場面転換。そこからは基本的にはデイヴィッド・シューリスとの密室的関係が綴られる。シューリスの一方的で独りよがりな求愛は成就しないが、その後はなぜか関係が改善していく。そこに、刑務所に収監されているというニュートンの夫の話が絡んでくる。

正直言って、大変偽善的なお話だと思うし、ニュートンの役柄もいささか無邪気すぎやしないか、という気もする。

とはいえ、美しいショットの構成、ディープ・フォーカスによって描かれる二人の関係性の変化など、画面の見どころは枚挙に暇がない。

ピンクの花びらが戸棚に置かれているのを見つけたニュートンは、それをコップに入れて寝る。アントニオーニ『赤い砂漠』のごとく、画面手前に花びらをなめ、眠るニュートンを切り取る。次のショットで、ピンクの傘をさす男性のショットが続く。
同じように、ニュートンがバーそそぐビールの泡が、そのまま床掃除の洗剤へとつながる。

あるいは、シューリスが開くコンサートのシーンも素晴らしい。子供たちが退屈そうに聞いている光景が少し笑えるのだが、その後はニュートンが郵便を取りに行き、彼女の不在に気付いたシューリスの視線をくみとったニュートンの友人が、急いでニュートンを探しに行く。一方部屋では子供たちが庭のサッカーボールを探しに行き、、というふうにみんなバラバラに行動を開始してしまう。それらが特定の帰結をもたらすわけではない、というのが良いじゃないか。どこか馬鹿馬鹿しくも、ローマの街の片隅の緩やかな時間の流れを感じさせるのだ。

ラストの突き放し方にも少し驚く。


2022年12月23日金曜日

パリ、13区

監督:ジャック・オディアール

脚本:セリーヌ・シアマ、レア・ミシウス、ジャック・オディアール
主演:ルーシー・チャン

主要登場人物のキャラクターが映画の最後までよくわからない。次の行動に全く予測がつかない。これが映画。これが映画の脚本。
マジで素晴らしい。フランス映画は黄金期にあるのではないか。

2022年12月19日月曜日

ファイブ・デビルズ

 監督:レア・ミシウス

主演:アデル・エグザルコプロス

匂いに敏感な少女が、特定の匂いをきっかけにタイムリープし、徐々に過去が明らかになるという構成がそこまで魅力的とは思えないのだが、画面で起きている出来事は抜群に面白くまったく弛緩することなく見ることができた。

構成の適否は置くとしても、匂いに敏感である少女の描写はこちらの好奇心をくすぐるし、母親であるアデル・エグザルコプロスがその才能に対して感激するどころか不安になるというところが面白い。前半はこの母親の神経質で内向的な感じと、娘の好奇心の赴くままに動き回る様子の対比がとても巧く描かれている。

後半になると、『隣の女』よろしく、あるいは『昼下がりの情事』よろしく、かつての恋人の帰還とそれによる秩序の混乱が描かれるのだが、たとえば凡庸な作家であれば住民が冷たい目で見てくるような描写をついつい入れたくなるところを、そうした直接的な描写を省き、周囲の人々の関係性の変化を描いていくところが素晴らしい。また、ジュリアの描写も抑制が効いていて、酒を探し回る描写などからはアルコール依存症を思わせもするが、それをやたら掘り下げることはない。群像劇ではないが、特定のわかりやすい設定に物語を収斂させない多元的なナラティヴになっているのだ。

断片的に良いシーンがたくさんあるが、「愛のかげり」の歌唱シーンが絶品だ。

ヴィッキーはタイムリープするたびに、路上で「目覚める」という運動を反復することになるが、最終的に湖で救出されたジュリアもまた、救急車内で「目覚め」、視界にかつての恋人の姿を認めることになるだろう。


2022年12月6日火曜日

さすらいの二人

 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ

アントニオーニらしい、縦構図の多用、粉塵や煙によるアクセントが横溢していながら、ヴェンダースの『まわり道』を思わせるような、アンニュイでどこか「素敵な」ロードムービーに仕上がっている。いや、アントニオーニがこんなに「面白く」「切なく」ていいのか?と思いながら見ていた笑

スペインやドイツなどを舞台とする豪華な設定であるが、とりわけ街路樹の美しさに目を奪われる。ニコルソンが「後ろを向いてごらん」と言って、マリア・シュナイダーが後ろを振り向くところのショットは唯一無二だろう。

終盤に『情事』を彷彿とさせるクレーンショットからの意表をついた長回しがあって、まったく見事なのだが、しかしこういうところが、アントニオーニらしいようでちょっと面白くしすぎじゃないか、という気がする。ハネケっぽいというか。