2013年2月10日日曜日

舞台恐怖症

監督:アルフレッド・ヒッチコック

 ジェーン・ワイマンの愛らしさがこの映画全編にわたって炸裂しており、彼女のクローズアップはどれも素晴らしく、また彼女が心臓病の振りをして見事に床に転倒してみせるワンショットが何ともかわいい。
 あらゆるショットが素晴らしく、物語の展開など全く追わずともその画面構成だけで見事に楽しめてしまう。
 
 まず冒頭、3ショットにわたって疾走する車を捉えたあと、車内のワイマンとリチャード・トッドが映される。ここで二人はチラチラと後ろを見たり相手を見たりしているのだが、二人の視線は見事なまでに一度も交錯しない。
 ここで「回想」シーンになる。
 この回想シーンは、場所の空間性を強調せずに、かなり人物に寄りながら、ワンショットで見せているのが非常に効果的だ。リチャード・トッドがマレーネ・ディートリッヒの家に入って、そこから階段を上っていくショットは、遠景からぐーっとカメラが後ろから近づいていき、リチャード・トッドを階段と鏡とのまさに「これしかない」という関係において捉え、彼を追っていく。
 そして彼が寝室に入ると、いくつかのショットを挟んだあと、ワンショットで彼がドレスをクローゼットから取る様を追う。そして彼がふと顔をあげると、夫の書斎らしき部屋が見える。この書斎を映したワンショットも凄い。

 あるいはワイマンとマイケル・ワイルディングが初めて出会うバーでのやり取りも見事なカット割り(空気読まず話しかけてくる太っちょのおじさんの絶妙な登場だとか)。
 またワイマンとワイルディングがガーデン・パーティに出かけるタクシーでのシーンがこの映画で最も見事でチャーミングなシーンだろう。ロマンスってのはこういうことである、という感じの、もう何も言うことのない演出の間合いだ。ここは本当に惚れ惚れしてしまう。

 ガーデン・パーティで召使のネリーを上からクレーンで下降しながら捉えたショットも秀逸だ。
 あるいはワイルディングの所作。彼女に刑事であることを伝えたときの帽子をつまんでの会釈だとか、彼女を見送ったあとに彼女の方を振り返る仕草だとかが、何気なく、しかしいい感じで捉えられてるのが嬉しい。二人のロマンスの醸成具合というのが、とにかく素晴らしい。

 ガーデン・パーティでの顛末が若干面白くないような気がするが、しかしラスト15分ぐらいの見事なテンションと、あっけない、しかしそれゆえに「倫理的な」美しいカット処理は凄いというほかあるまい。あと、このラストのちょっと前に、修羅場を乗り越え、涙にくれるワイマンに静かに拍手を送る父との切り返しが美しい。警察がディートリッヒのもとへと向かう物語的には「動的な」展開において、この静かな3ショットをはさむヒッチコックの手腕。
 あるいはワイマンにチャールズ・トッドが真実を打ち明けるシーンの二人の顔、というか目。心理的に何かを表現しているのではなく、ひたすらこの二人の目が露呈している。恐ろしいシーンだ。

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