監督:オリヴィエ・アサイヤス
近景の美学とでも言うべきか。被写界深度をうんと浅くして、人物と空間を完全に切り離し、物事の推移を決してクリアには見せない。それでいながら、画面はひたすらゴージャスな印象を与える。それは例えば一瞬のロングショットの切れ味(終盤のヘリコプターのショット!カーチェイスの俯瞰!)であり、あるいは創意に満ちたクローズアップの数々(コニー・ニールセンとクロエ・セヴニーの車でのシーンなど)による。
つまり、極めて狭い範囲に被写体を絞りつつも、その被写体はそこらへんの映画の画面の数倍豊かさに満ちているわけだ。
この「掴み」があるからこそ、逆にこのような浅い被写界深度でしか表現できない数々の芸当とでもいうべき演出が堪能できる。とりわけ冒頭の空港での見事な長回し、人物の配置、そして女同士の殴り合いのものすごい密度、暴力性。
砂漠のシーンはほとんどストーリーが意味不明であるにも関わらず、次に何があっても「オッケー!いくらでもついていくよ!」と言いたくなるような、完全に「突き抜けて」しまっている。このような体験は極めて稀有だが、いやしかしこれぞ映画を見る喜びだ。
※個人的な好みを言えば、これほどホテル、レストラン、ガラス貼りの高層ビルといった映画的シチュエーションであれば、やはりロングとフルショットと奥行きの深い画面が見たかったと言いたいところだが、しかしそれではここまでの狂気性は出なかったに違いない。
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