監督:クロード・ミレール
この圧倒的な一大映像叙事詩を前には、誰もが言葉を失うのではないか。映画に出来得るあらゆる技術を可能な限り使い尽くし、めくるめくイメージの世界を2時間味わわせてくれる。こんなに素晴らしい事はない。
何から書けばいいのかわからない、というより全ての画面、一つ一つの画面の全ての細部が輝いていて、もうこれについて何か書くという事が野暮に思えるぐらいだ。
ひとまずオープニングから書こう。
優雅なクラシック曲で幕をあけるオープニング。母親のタニヤが子供フランソワを連れてプールサイドを歩くショットでは、フランソワの顔にカメラがセットされ、二人の横を平行して移動していきながら、時折プールサイドの光景がインサートされる。その中でも子供が水辺を駆け抜けるワンショットの瑞々しい感動。また、上記したようにカメラは子供の高さに合っているため、母親のセシル・ドゥ・フランスは、その胸元、脇が映っているのみであるが、これほどに官能的なショットがあっていいのだろうか!
また、タニヤがジャンプ台にあがるため、プールサイドにフランソワは放置され、ゆっくりとプールの中に入っていくが、その奥から別の子供がプールにジャンプすることで、水しぶきがあがり、それがフランソワにかかり、フランソワが怯える。このショットが、後に出てくるフランソワの異母兄弟であるシモンが、逆にプールに元気よくジャンプするショットと対照をなしているのが面白い。
全編を通じて、カッティング・イン・アクションが冴えわたっている。ぬいぐるみを箱にしまう手つきのアップ、子供を抱き締める腕のアップなど、アクションの瞬間とともに(まるでブレッソンのように)アップを入れてくる。しかしかと思えば、アンナがシモンを平手打ちするショットでは、シモンがアンナのタバコを持つ手をコツンとやるアップショットから始めて、アンナの平手打ちとともに一気にカメラが引いて見せる。この引きの画のなんたる迫力。この映画のハイライトとも言える。
タニヤ、アンナ、マキシムをめぐる三角関係の描写も冴えまくっている。
視線の交錯とすれ違いだけで三人の関係性を完璧に描いて見せる手腕。そしてこれこそが映画を見る喜び。
とりわけ結婚式のパーティにおいて、マキシムがタニヤの方を見つめる。それをまずはタニヤを手前、マキシムを奥に配した縦の構図で切り取り、次にマキシムがバストショットで右側に視線を向けると、友人に手品を披露して満面の笑みを浮かべるアンナがいる。マキシムの視線ショットで捉えたアンナが、カメラに向かってにっこりとほほ笑むと、それに呼応するようにマキシムが笑いかける。これだけの事であるが、しかしこれこそが映画なのである。
あらゆる名作を抜き去って、もう史上最強の映画って言ってしまいたいぐらいの超絶大傑作映画である。
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