2015年5月4日月曜日

フィラデルフィア

監督:ジョナサン・デミ

実に迫力のある映画だ。
トム・ハンクスの私生活はほとんど描かれない。仮装パーティと、法廷での回想シーンぐらいなものだ。アントニオ・バンデラスとトム・ハンクスは一度もキスをしてないのではないか。
徹底して私生活を描かず、見る者の想像力にゆだねている。
二人が尋問のリハーサルをするシーンで、トム・ハンクスの顔に当てられた赤みがかった光線が美しい。
冒頭のバンデラスとインターンの医師との対立が面白い。

カメラ目線を多用している。人物はよくカメラの方を見ている。これはいくつかの意図、効果を感じさせる。デンゼル・ワシントンのオフィスにトム・ハンクスがやってきて、「エイズだ」と告げると、ワシントンは動揺し、視線が泳ぐ。そうした視線の泳ぎがワシントンのPOVとしても、あるいはトム・ハンクスのPOVとしても提示される。真正面にカメラを据えることで、視線の揺らぎが強調される。

デンゼル・ワシントンに法学生が絡んでくるシーンがある。そこで法学生がゲイをネタにするのに対して、デンゼル・ワシントンが怒りを露わにする。「こういう奴がいるから・・・」とも言う。当然のようにこれは自分にも向けられている。自分もまた妻とゲイをネタにした会話を楽しんでいたりするからだ。デンゼル・ワシントンは、だから、この映画を通して、過去の自分と向き合わなくてはいけない役柄だ。そのモチーフとして”鏡”の存在があると言ったら、深読みが過ぎるかもしれないが。

差別や偏見をテーマにした映画において、偏見や差別意識を抱えた人間が主役に配され、徐々にその偏見を克服していくようなストーリーは、いくつかあると思うが、あまり思い浮かばない。
『クラッシュ』(ポール・ハギス)とかは、ちょっとまた毛色が違う気もするが。

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