2023年1月4日水曜日

あのこと

 監督:オードレイ・ディヴァン

中絶を題材とした映画は、近年でも『4,3,2』、『16歳の瞳に映る世界』など秀作が続いており、そして本作。共通するのは、手持ちカメラで一人称的ナラティブを徹底していく点である。正直いうと、(おそらくはヨーロッパでは相当なインパクトと影響を残していると思われる)『4,3,2』以降、中絶映画は手持ちカメラで被写界深度浅く、が定番になってしまっているのではないかと思ってしまうほどには、「またか、」となってしまった。画面サイズはスタンダードが選択されており、これでもかというほど世界が狭く捉えられる。上にあげた2作は、シスターフッド的な要素がフィーチャーされていたが、本作の主人公はそれに比べるとかなり孤立状態に置かれていると言って良い。上の2作は、そもそも妊娠をした女性とその協力者の関係性が突出して描かれていたのに対して、本作の場合は、「知り合いはいっぱいいるけど誰も積極的に協力してくれない」という意味で、突出した関係性は存在せず、ただ薄いつながりだけが複数あるということが露わにされている。しかしそれでも最後に反目していた寮の同級生が助けてくれるのであるから、そこには希望があるのかもしれない。

序盤に講義が終わったあとに三人で校舎の外の広場で陽光を浴びながらお喋りするショットは、彼女が着ているストライプシャツの発色が良く、陽光の加減も美しく、大変素晴らしかった。しかしそれ以降、即物的でショッキングな描写が続くものの、これぞというショットはなかったように思うし、大学生同士の関係性の描写にももっと工夫があって然るべきではないか。中絶映画で「ありながら」、冒頭から女子大生たちの性的欲望をかなり掘り下げている点は極めて新しいと言える。

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