2023年1月1日日曜日

ナイブズアウト グラスオニオン

 前作は「ギリギリオッケー」であったがゆえに「大変素晴らしかった」のだが、本作はあまり乗れない。
大ヒットを記録した知的なミステリー映画の続編ということで、前作をいかに上回るか、というところが製作陣(あるいは知的な脚本家ライアン・ジョンソン)のチャレンジであったに違いない。そして実際のところ、この映画は多くの点で「前作を上回っている」。色々とアップグレードされている。とりわけ映画の構成に仕掛けられた伏線とネタばらしのスケールにおいて。しかし、逆に言えば、前作に比べて「度が過ぎている」。
「さっきのあの場面は実はこうでした」というショットが延々と続く中盤はどうだろう。確かにライアン・ジョンソンは、単なる知的ミステリーオタクではなく、ショットの構成において抜群のセンスがある。しかしそうはいっても、やっぱりこれは単なる説明なのだ。これならば素直に、姉の復讐を誓うジャネール・モネイが大胆に変身していくアドベンチャースリラーにした方が良いじゃないか、とどうしても思ってしまう。求めるものの違いといえばそれまでだが。

また、ジャネール・モネイの変容ぶりは確かに物語の旨味として仕込まれてはいるが、前作ほどの心躍る感覚はない。それは、前作におけるアナ・デ・アルマスの変容ぶりが、その都度直面する危機に対して「体が勝手に、」式のヒッチコック的ハプニングによって駆動されていたのに対して、本作のジャネール・モネイは、あくまで「真実に向かって酒飲んで行きまっしょい!」式の全き能動性によって駆動されているからだ。これでは運動が躍動しないのだ。

もちろん、相変わらず良き中年男性としてのダニエル・クレイグの良さ、エドワード・ノートンの若々しい芝居、ジャネール・モネイの溌剌としたパフォーマンスは見ていて楽しい。人物が集まったときではなく、散り散りになったときこそ活きる空間設計と照明の妙にも感心するが。

(追記)
反復になるざるを得ない制約のなかで、それをいかに視覚的に豊かにするかに腐心したあとがある、という意見もあり、なるほどと思った。
https://twitter.com/HWAshitani/status/1607245547857137665

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