出ました、ジョン・マッデン。近作の『女神の見えざる手』は素晴らしい娯楽映画だったが、その前に撮っていた『ペイドバック』も面白かった。この『ペイドバック』がヘレン・ミレン主演だったのだ。
前EPと撮影監督が同じだが、明らかにルックスが違う。そもそも画面サイズがスタンダードになっているのだが、それは置くとしても、コントラストがより強調された照明、逆光を多用した人物の切り取りが横溢している。あえて俗っぽく言えば、これまでのエピソードで最も”シネマティック”かもしれない。
遺体発見時の川べりを捉えたクレーンショットや、ガラスの反射の使い方、会議室でのカッティング処理の充実ぶりは評価できるだろう。
物語はまたしてもペドフィル系なのだが(さすがに似たような題材を扱いすぎなのではないか)、今回はペドフィリアの心理的闇にも焦点が当たる点で、これまでと様相が異なる。より心理的で、組織の描写よりは個々人の描写が重視されている。その事をどう評価するかは分かれると思うが、シリーズものの宿命ともいえる。ちょっと心理的すぎると思うが。
容疑者として浮上する男が本当に犯人なのかという点と、彼の治療医の職業倫理、それから暴走する警部補の隠された過去(これなんかも、EP2のアフリカ系巡査の話と図式は同じで新味はない)などがフィーチャーされるのだが、結末に意外性がある。このあたりの真相の提示の仕方に過剰な演出がないのがいい。
以下、完全にネタバレだが、
ヘレン・ミレンが中絶手術を終えるところから始まり、ラストは実は幼児殺害の犯人が母親であることが判明する(ここが極めて自然な流れで、あまりタメをつくらずに、母親が独白し始める、というあたりの処理が良い)。母親は、子供に人生を奪われた、と言い放つ。泣き止まない子供のせいで生活もできず、仕事もできない。子供なんてちっとも良くない、と泣きながら言い放つ。それでとうとう母親は子供を殺してしまうわけだが、ヘレン・ミレンはあくまで彼女に同情的にふるまう。それはヘレン・ミレンもまた、仕事のために「中絶」を行ったからだ。幼児の遺体を見たあと、涙を禁じ得ないヘレン・ミレンの姿は、自身が殺した我が子の遺体を見て涙を流す母親と同じなのだ。
こうしたモチーフは偶然にも『女神の見えざる手』のスローンの存在にも通底する。加害者を追うことで、自らの加害性をも自覚し、傷ついていくヒロイン。マッデンの得意分野という感じか。
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