監督は初の女性起用で、サラ・ピア・アンダーソン。カメラは3話目からのデヴィッド・オッド。
振り返ってみると、1話目から捜査チームに誰かしら不協和音的な存在がいて、事件の題材を反映した存在を背負っていることが多い。最初はヘレン・ミレン自身がそうなのだが、2話目の黒人巡査、3話目はゲイの刑事、4話目が虐待された過去をもつ刑事。1話目は娼婦を狙った連続殺人と抑圧的な夫に耐える妻もフィーチャーされた。2話目は人種差別が題材、3話目はドラアグ・クイーンの世界に関わる殺人事件、4話目が幼児の殺人事件。
つまり、毎回何らかのマイノリティ集団がかかわっており、そして実は少なからぬ関係のある人物が捜査チームにもいて、決して自分たちと関係のない「よそ」の話ではない、という図式が強調されるように脚本が書かれている。
今回もそうした構造を引き継いでいるといえる。今回の「異質な」存在が、ソフィー・スタントン演じる、クロムウェル刑事である。
捜査の領域が、深刻な薬物汚染をかかえる、かなり治安の悪い団地へと向かうのだが、実は終盤に、クロムウェル刑事が、かつて薬物依存で更生施設にいた経験をもっているということが判明する。その判明するシーンの演出が素晴らしいので記しておきたい。
未成年の女性を尋問するシーン。当初、ヘレン・ミレンが主導的に尋問を進めていたが、被疑者の横で様子をみていたソフィ―・スタントンが、被疑者の向いに立つ。カメラはヘレン・ミレンを映したショットのまま持続し、スタントンが画面左からフレームインしてくる。ヘレン・ミレンとスタントンが横に並ぶかたちになるのだが、窓からの陽光により、微妙に違った光が二人にあたっている。この画面のまま、スタントンがかなりagressiveな態度で被疑者が更生施設出身であることを指摘し、自分もそうだと打ち明け、私たちはクズなんだから、シロならちゃんとシロと言われないと犯人されちゃうんだよ、と発破をかける。それを斜め後ろから驚いた様子で見るヘレン・ミレンの視線。そこでカットが割られ、尋問後、化粧室の場面に転換する。そこでスタントンが鏡の前に立ち、奥にヘレン・ミレンが立っている。二人はそもそも、中盤まで、どちらかというと感情的に対立し合う関係だったのだが、スタントンが自分の出自を明かした直後のこのシーンで、二人の関係が改善するのがわかる。やってることは、単にフィックスショットを少し持続させ、なおかつ照明に気を遣って構図を整える、できれば鏡も駆使して、というごく基本的で単純な演出なのだが、そのシンプルな展開が胸を打つ。あるいは、ソフィ―・スタントンの気持ちの良い威勢のよさが非常に際立つ。
お話全体はさほど面白くないのだが、シリーズ屈指の満足感で、これは一押し。