監督:ギョーム・カネ
出だしのオープンテラスでのムーディな演出、さらに翌朝のあまりのもメロメロな湖畔でのデート、そして突然の災難までの10分間は、近景で体のパーツを追いかけながらサッと遠景に引く、という手法においてクロード・ミレールの『ある秘密』、『リリィ』のように素晴らしい。ともするとMTVみたいになってしまうのだが、ここではむしろ映画ならではの幻惑的な手さばきとして成功していると言ってよいだろう。
中盤になるとこの手法はあまり見られなくなり、あるいはやり手の弁護士の弁論術だとか、二種類もの回想を使っての種明かしだとか、どうにも面倒くさいシーンが目立ってしまう。
特にやり手の女弁護士は、いや良いとは思うが、しかしこのキャラクター自体がはっきりいって不要である。彼女が検事を言いくるめるシーンなど、もはやなぜこんな面倒くさい話についていかなくてはならないのか、と思わせる。
あるいは、彼女の役割は中盤でフランソワ・クリュゼに警察が病院に来ることを教えるというただそれだけのことで、ほとんどこれだけのために要請されたキャラクターなのかもしれないが、しかしこんなのは、診療中の色盲の子どもが窓の外を指さして「あれは何色?」とでも聞いて、パトカーの存在に気づく、ぐらいでいいのではないだろうか。
さて、しかし僕がこの映画でもっとも気に入ったのは、上記のシーンで逃げ出したフランソワ・クリュゼが、ハイウェイを強引に横断して警察を撒くシーンだ。
彼だけが何故か余裕で疾走する車の網の目を抜け、警察は全くついていく事ができない。この辺のご都合主義も面白いが、何より全く進むことができずにイライラし始める警察をフランソワ・クリュゼがドヤ顔で凝視するショットだ。
なぜにドヤ顔なのだ。というより、一応追われている身なのだから、勝ち誇ってる暇があったら逃げろ、と言いたくなるが、しかしフランソワ・クリュゼは、まるでマトリックスのネオのように、ドヤ顔を決める。このバカバカしさに思わず笑ってしまう。素晴らしく決まっている。
なかなか面白い映画ではあるが、中盤~終盤の説明的な展開が致命的でもある。あと、カメラマンの女性が殺されるシーンのあの発砲する瞬間のショットがダサい。
が、黒幕が逮捕されるシーンの、ジョッキーが落馬するショットとのカットバックとか、結構良い。あるいはクリスティン・スコット・トーマスが最高である。
ラストに再会し抱擁を交わした二人を映したカメラはそのまま上空へ上がり、過去の二人を映し出して、終わる。オープニングで見せたメロメロのナルシスティックな演出が、最後に帰ってきて、思わず拍手。
0 件のコメント:
コメントを投稿