監督:アレクサンダー・ソクーロフ
一種のロードムービーのようにして、ファウストとミュラーが街の中を移動し続けるわけだが、この映画が面白いのは、その移動の動機が実にテキトーである点だ。ファウストが行く先々に、何らかのイベントが発生しており(不良による恫喝、死体の運搬、大行列など)、それに対処したり、そこから逃げたりする過程で、いつの間にか次なる場所に来てしまう。そんなような感じで撮られている。酒場に無理やり入れられてしまうシーンなどが典型的だ。
あるいは、ファウストの移動を中心に据えながらも、行く先々での描写においては、むしろ群像劇のように撮られていて、ファウストは傍観者のような立ち位置になっている。だから、例えばミュラーの店に初めてやって来たシーンでも、ファウストはあくまでその他の人物達(布団たたきをする主婦、居眠りをする馬車の御者、あるいは路上で眠っている男)などと同程度の存在感しか示さなかったりする。さらには、ファウストが誤って青年を刺してしまうシーンにしても、その扱いはまるで何事もなかったかのようだ。決して(予告編が言うように)「運命が狂った!」という感じではなく、あくまで酒場の騒音の中で起きた一事件に過ぎない。むしろその直前の、ミュラーがワインを出してみせるシーンのインパクトの方がはるかに強いだろう。
また、なぜか必ずと言っていいほど、各場面において物陰から様子を伺っている人物が捉えられている。物語上結局絡んでは来ないのだが、それにしてもたとえばワーグナーが帰り際に扉をしめながらこちら側をジーッと睨んでいる描写など、凄いインパクトだ。
まるでギャング映画のような罵詈雑言の嵐である。常に行く先々で人々が揉めて乱闘騒ぎになる。これはアクション映画だ。
画面の美しさが尋常ではない。とりわけマルガレーテが母親とともにベッドに横たわるシーンのフルショット。あるいはファウストとマルガレーテが川に落ちていく俯瞰のショット。あるいは、ファウストとミュラーが揉みくちゃになるシーンの埃の描写も面白い。
やはり2012年のベストはこれで間違いない。
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