監督:矢崎仁司
素晴らしいと思う。セリフが異常なまでに少ない一方、工事現場の音であったり、瓶の蓋が落ちる音なんかが極めて印象的。
物語の設定からして、これはいわば「何も共有していない二人」がゼロから関係性を築いていく映画であって、当然そこには二人の身分を動機とする行為よりは、その場その場の突発的な衝動的な行為が重ねられていくだろう。であるからこそ、この映画は断片の集積としてあり、それぞれの断片には何ら関係性がない。それ自体がある意味映画的だが、118分は少し長い感じもする。
視線ショットがとても多くて、なかでも駄菓子屋の老夫婦が髪を切ってるとこを由良宣子が見るショットが素晴らしい。それに対して序盤に趙方豪がトイレの割れた窓から外を眺めるシーンでは、彼の視線ショットは映されず、窓の外から彼を捉えたショットで処理されている。意図は不明。
白いテーブルクロスと白いカーテン、そして白い冷蔵庫が太陽光をめいっぱい反射させた画面の美しさには思わず惚れ惚れしてしまう。特に由良宣子が趙 方豪にキスしようとしてやめて、そのまま床に寝そべるシーンの画面は素晴らしい。
あるいは二人が衝動的に駆け寄って抱き合うシーンもいいね。
趙 方豪が記憶を取り戻して実家(?)に戻ってきたシーンはセリフがゼロなのだが、彼がヘルメットを頭上の棚に置くだけで、「ああ、思い出したんだ」とわかる。つまり画面が雄弁である。さらにその直後では、彼が(おそらく日課だったのであろう!)コーラを飲みながら床に座って、そのまま流し台に置くという動作を、瓶なしでその動作だけして、流し台にその架空の瓶を置いた瞬間に、実際の瓶が流し台にある事に気づき、思わずそれを手にとり中身を飲む、という一連の演出は上手すぎる。
駄菓子屋の老夫婦とのエピソードが本当に本当に素晴らしく、実際これで終わってしまってもいいぐらいだと思ってしまった。
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