2022年5月9日月曜日

ハンド・オブ・ゴッド The Hand of God

 監督:パオロ・ソレンティーノ

ソレンティーノは『Youth/グランド・フィナーレ』しか見ていないのだが、同じような感想を持った。つまり、すごく良い映画な気もするし、なんか騙されてるような気もするし、という感じである。
断片的な面白さによって駆動されているものの、その「面白さ」が割と一発芸的というか、ハッタリ的面白さに頼り過ぎなんじゃないかと。本作でいえば巨漢のカップルだとか、口の悪い婦人だとか、恒例のナイスバディな女性だとか、見るものを捉えはするが、どこか白々しい。
自伝的な映画ということで、アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』にも通じるところがある。しかし『ペイン・アンド・グローリー』ほどのイメージな豊穣さがあるかというと、これは好みの問題でもあろうが、上記の感想になってしまう。

とはいえ、力のある映画だ。一発芸的と書いたが、その一発芸が大いに笑える。主人公の母親が「やたらイタズラ好きである」という、身もふたもない性格設定がまず面白い。アパートの住人に映画プロデューサーの広報に成りすましてイタズラ電話をするのだが、一切のフォローもなく、「そういう人」として処理されている。
彼女が夫の不倫が続いていることを知って大声で絶叫する場面が、ベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』を想起させる「母の号泣」であるが、少しやり過ぎではないか。

おそらくドローンを多用していると思うのだが、ほとんどのシーンで必要性を感じなかったのが辛い。特にオープニングのナポリを一望してみせるショットも、これ見よがしで鼻白むし、兄弟達が病院まで車で急行する場面も、俯瞰の横移動というドローンならではの撮影をしているが、効果には疑問を感じる。タイトルはマラドーナの伝説のゴールだが、映画監督、そして運命といった意味合いも込められているのだろう。しかしこうしたこれ見よがしなドローン撮影は、ずいぶん慎ましさを欠いた「神」ではないか。

ナイスバディな女性として、序盤からかなり目立った活躍をみせるパトリツィア(ルイザ・ラニエリ)であるが、終盤は精神病棟に収監され、悲しみが際立つ。
主人公と彼女が病室で対話する場面では、入り口付近に座る少年と窓際に座る彼女との、美しい切り返しで見せたあと、彼女が少年の隣に来て、横並びに座って語り合う。彼女が静かに涙を流すショットが素晴らしい。また、その後、再び会いに来たシーンでは、電池をベランダから投げて、そのまま姿を消してしまう。

タバコの密輸をやってる男との交流も、短いながら面白く印象的だが、個人的には映画監督との5分ぐらいのシークエンスが良かった。夜明け前の薄暗い光のなか、「思ってることを言ってみろ!」と映画監督が叫ぶ、その光景が端的に美しい。




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