2022年5月12日木曜日

ふたつの部屋、ふたりの暮らし(嫌な邦題。『デューDEUX』じゃダメなのか!)

 監督:フィリポ・メネゲッティ

化け物級の長編デビュー作である。ぶったまげた。
法や規範を超えるレズビアンの愛を、まるでミシェル・フランコのような「家族乗っ取り」サスペンスにしてしまう脚本と手腕。
そして豊饒なるイメージの連鎖も素晴らしい。
映画とは、その空間、その時間、そしてそこにある感情を、豊かなイメージと音でもって重層的に画面に定着させていく芸術であるが、この作品はそれを見事に示している。
例えば、、、
・アヴァンタイトルの隠れんぼにおける、あの恐怖感。フランスらしい、プラタナスの美しくも怪しいフォルムを見事に生かした画面造型だ。

・子供が川にボールを落として、それを拾おうとすると、過去のトラウマ的な映像がオーバーラップする。その不吉な予感は洗濯機が回る映像へと転移し、やがて二人の不和へ。

・フライパンが焦げるイメージの多用。悲劇、事件、焦燥。

中盤に物語の主人公が一方から他方へと移る脚本も見事だが、監督は『ナチュラル・ウーマン』を見たのかもしれない。
愛する人の部屋に「潜り込む」ことの「スリル」と「悲哀」は『ナチュラル・ウーマン』と共通している。
バルバラ・スコヴァ演じるニナが、『ELLE』のイザベル・ユペールばりの逸脱行為をする展開も凄いが、その一つ一つが、やはり「隠れて愛し合う」ことの悲哀なのだ。とはいえ、あの窓ガラスへの投石には驚いた。ここまでやるか!素晴らしい!

※ (以下ネタバレあり)
ただし、終盤の帰結には疑問が残る。というのは、最終的にニナの部屋に空き巣が入るのは、これは介護士の母と息子の仕業であることが想像される。この展開は、おそらく最終的にニナがマドレーヌをイタリアに連れていくのを諦めざるを得ない、という帰結にしたかったからだろう。しかし観客としては、このままイタリアに行けるとは到底思えないことから、別にわざわざそんな展開を入れなくても良かったように思う。
介護士のおばさんもだいぶいい顔をしており、この役柄をこういう使い方するのはちょっともったいない気がした。

あるいは、全体として、映画の見事さとは別に、この二人の愛のかたちの激しさ、プラトニックな感じ自体がどうなのかという論点はありそうではある。


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