2019年11月14日木曜日

ポーランド映画祭 その2 尋問 Przesluchanie

監督:リシャルト・ブガイスキ
主演:クリスティナ・ヤンダ

スターリン時代に舞台女優が偽りの罪状で逮捕されて監獄で拷問、尋問に合うという映画。
監獄映画というのは、振り返ってみると結構傑作ぞろいだ。
ブレッソンの『抵抗』や、ロッセリーニの『ロベレ将軍』、ヘクトール・バベンコは『蜘蛛女のキス』や『カランジル』といった傑作を撮った。
ところで、このブガイスキが82年に撮った『尋問』は、ちょっと凄い。あまり大それたことを言える立場ではないが、数ある監獄映画のなかでも、最強の一本ではないか。冷戦終結後の90年にカンヌで披露されて、クリスティナ・ヤンダが主演女優賞を受賞したようだが、いや全く異論なし。この映画のクリスティナ・ヤンダはちょっと桁違いの破格のパフォーマンス。彼女の一挙手一投足に人類の歴史が、人類の自由が託されているかのような感覚さえしてくる。

K・ヤンダ演じる女優を飲みに誘う男二人組が体制の人間なのだが、この二人によって酔わされ、そのまま監獄に入れられ、そこで酔ったまま裸にされ、着替え、何十人もの女性たちのなかで眠らされる。一夜が明けて酔いが覚めると、突然整列が始まり、理解できないまま狼狽しているとほかの女性達に強制的に並ばされる。このあたりの不条理な展開が徹底した厳しいフレーミングで描写されるのだが、同時にK・ヤンダ演じる女性の逞しさが随所に現れるのが良い。『大理石の男』でもK・ヤンダは落ち着きのないハチャメチャぶりを見せていたが、ここでもそうした路線のパフォーマンスを見せている。中盤以降は監房での女性達とのやり取りと、尋問官とのやり取りが見どころになっていて、これがまた、他に類を見ぬ独創的な表現になっている。どちらのシーンにおいても、時に狂気が支配し、しかしそうかと思えば次の瞬間にはユーモアが流れ、美しい友情の表出があり、同時に乗り越え不可能な不和がある。それらが次々と前触れなく襲ってくる。
特に尋問官たちが茶番劇を仕掛けてK・ヤンダを自供させようとするシーンがあるが、ここで死んだふりをした男がK・ヤンダが倒れてきた勢いで起き上がってしまうという間抜けな展開になっている。死を覚悟したK・ヤンダも思わず大笑いしてしまうのだが、見ている我々観客も笑うに笑えない、しかし笑うしかない、いやこれこそ大笑いだ。この一瞬で感情が大幅に振れる大胆な演出ぶりは、ちょっとほかに例を思いつかない凄さだ。ブゴイスキの確信に満ちた演出と、それを圧倒的パフォーマンスで体現しきるK・ヤンダに最大級の賛辞をおくりたい。













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