2022年12月19日月曜日

ファイブ・デビルズ

 監督:レア・ミシウス

主演:アデル・エグザルコプロス

匂いに敏感な少女が、特定の匂いをきっかけにタイムリープし、徐々に過去が明らかになるという構成がそこまで魅力的とは思えないのだが、画面で起きている出来事は抜群に面白くまったく弛緩することなく見ることができた。

構成の適否は置くとしても、匂いに敏感である少女の描写はこちらの好奇心をくすぐるし、母親であるアデル・エグザルコプロスがその才能に対して感激するどころか不安になるというところが面白い。前半はこの母親の神経質で内向的な感じと、娘の好奇心の赴くままに動き回る様子の対比がとても巧く描かれている。

後半になると、『隣の女』よろしく、あるいは『昼下がりの情事』よろしく、かつての恋人の帰還とそれによる秩序の混乱が描かれるのだが、たとえば凡庸な作家であれば住民が冷たい目で見てくるような描写をついつい入れたくなるところを、そうした直接的な描写を省き、周囲の人々の関係性の変化を描いていくところが素晴らしい。また、ジュリアの描写も抑制が効いていて、酒を探し回る描写などからはアルコール依存症を思わせもするが、それをやたら掘り下げることはない。群像劇ではないが、特定のわかりやすい設定に物語を収斂させない多元的なナラティヴになっているのだ。

断片的に良いシーンがたくさんあるが、「愛のかげり」の歌唱シーンが絶品だ。

ヴィッキーはタイムリープするたびに、路上で「目覚める」という運動を反復することになるが、最終的に湖で救出されたジュリアもまた、救急車内で「目覚め」、視界にかつての恋人の姿を認めることになるだろう。


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