監督:濱口竜介
『ドライブ・マイ・カー』で思ったように、やはりこの人の映画って、人間ばかりが目立っていて、周辺の小道具とか装置に全然興味が持てない。ぶっちゃけホン・サンスは好きではないものの、何となく食い物とか、窓枠とか、そういうのが頭に残ったりする。本作で真っ先に比較したくなる(が、ぶっちゃけ全く違うと思う)ロメールにしても、例えば『美しき結婚』でベアトリス・ロマンがあーだこーだ言ってるときに目に映るのはアリエル・ドンバールが手掛けるアート作品だったりする。
なので、いくら良くできたお話でも、観念的な印象をぬぐえず、映画としての体温を感じない。というかこれなら、スクリーン見なくていいじゃん(白状すると何度か視線が滑って劇場の非常口のマークを見てしまった)。
あるいは映画において偶然というのはそもそも、モノの予想もつかぬ動きによって人間が衝突する、というものではなかったか。ということを総論として思った。
ただ全体として、相手のコンフォートゾーンに土足で侵入する横暴ぶりと、一歩踏みとどまって引く男気の両面をうまく見せていると思う。それと、こいつが主役と見せかけて、あ、あなたが引っ張るのね、という意外性の出し方も上手。
さて、
第一話。
『いとみち』にも出ていた中島歩の芸達者ぶりというか、受けの演技が素晴らしい。
このエピソードのキャラ設定が一番ロメールっぽい。(『パリのランデブー』の第一話だね)
古川琴音が最後に見せる「男気」が良いじゃないか。実はこのエピソードが一番楽しめた。
ただ、中島のオフィスは空間としてあまり面白みがないのと、声がやたら響くように設計されているのだけど、なんせセリフがめちゃめちゃ多いんで、だんだんこの音響が煩くなってくる。
第二話。これ、最低。全然面白くもないし、5年後とかどうでもいいよ。
言語化可能な領域の外に出る力とかさ、うるさいって。刺さる人には刺さるのだろうが、私には何も関係がない。これなら宮台真司のデイキャッチャーズボイスでも聴いてた方がマシよ。内側からの切り返しもこれ見よがしで嫌だったね。
第三話。10年前の震災のとき、ちょうど『ヒアアフター』が公開されていたことを思い出した。ヒアアフターの主題をより捻りを効かせて、得意分野に持ち込んだような見事なエピソードだ。偶然の再会のシーンがツァイ・ミンリャンの『河』を思わせる。
花壇から仙台駅までよく歩きますね。あと、定禅寺通りのあそこは道じゃない!(笑 それはいいですが、せめてあそこの銅像とか映せばいいのに!(笑))
河合青葉が息子が好きなフィギュアに全然興味が持てないとのことだが、なるほど濱口も興味がなさそうである。知らんけど。
第三話はヒアアフターを思い出しつつ、ペッツォルトの『あの日のように抱きしめて』も思わせる。というか、濱口とペッツォルトのテーマには共通点が多い。自分の好みとしては断然ペッツォルトだが。
全話とも、あまり時間の変化がない。
いろいろ話し合って、気づいたら夜だなぁ、とか、歩き回って気づいたら朝だなぁ、とか、そういう時間の推移がないのが残念、というか致命的な気もする(観念的な印象ってこういうところからも来る)。
ちょっと言い過ぎた。いや、もうすでに「世界のハマグチ」なので何言ってもいいだろ的浅ましさで書いたのだが、これだけ(無名ではないが)「非有名俳優」を集めてそれぞれに個性的なパフォーマンスをひきだしている事については拍手。日本にはまだまだこれだけ魅力的な俳優がいるぞと、そういう事を教えてくれるという意味で、大変貴重で重要な作品であることは間違いない。まぁちと好みが・・・(苦笑)
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