傑作。それほど凝った演出をしているわけでもなく、オリジナリティや作家性を感じるようなシーンは皆無と言っていいと思うけれど、にもかかわらず、これは正真正銘の傑作だ。真っ正直な映画。
たとえば、風にはためく衣服を撮っているからこそ、地面に落ちている血のついたシャツが存在感を帯びる。
あるいは、内と外をさえぎるガラス窓を経由する丁寧な視線の演出。そしてそれがあればこその、ガラス窓が割られる瞬間の強度(音響が大変すばらしい)。
荒野を歩く二人を捉えたショットはどれもすばらしい。
大雨の描写もすごい迫力だ。
ヴィゴ・モーテンセン演じる元兵隊のフランス人と、一緒に目的地を目指すことになるアルジェリア人モハメドの対比。
たとえば追手が学校まで襲撃に来たときの描写。きわめて機敏に動くモーテンセンに対し、モハメド座って祈るばかりだ。
あるいはモーテンセンが道中で通行人を殺してしまったときの、モハメドの妙な落ち着き。
雨宿りのつもりで入った小屋に屋根がなかった、というエピソードはモーテンセンのリアクションもあってとてもコミカルだが、二人に笑いは起きない。このあたりの”極限感”が見事だと思う。
あるいは二人がやっと笑ったと思ったらゲリラ兵達が突然やってくる、というのもすばらしい演出だ。
洞窟で政府軍が襲撃してくる描写も迫力があるし、モーテンセンが洞窟の外に歩み出る場面もオーソドックスでありながら、これしかない、という印象を受ける。
荒野を歩いた果てに、立ち寄る町。
そのつかの間の休息が、主役二人に潤いを与え、映画自体にも新しい風を吹かせる。そうであればこそ、「生きること」というあまりにシンプルなメッセージが、きわめてヴィヴィッドに観るものに伝わってくる。『エッセンシャル・キリング』とか『最前線物語』のようなすばらしさ。
ラストも大変すばらしい。シンプル・イズ・ベストを地で行く大傑作。
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