35mm フィルム (スコセッシ所蔵)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ケーリー・グラント、エヴァ・マリー・セイント、ジェームズ・メイソン
不朽の名作。何も言葉にする必要のない、ただ画面だけを眺めていれば、もうそれだけでオッケーという感じだが、せっかくなので今回の鑑賞で思いあたった点を記しておこう。
この映画では、多くのものが知らぬ間に変化する。それはプロットにおいてもそうだが(突然別人に間違われて命を狙われること。直前まで話していた人物が死んでいること。)、画面においてもそうなのである。例えば列車でケーリー・グラントを匿うエヴァ・マリー・セイントは、グラントが化粧室に隠れている間に、いつの間にか黒のドレスから白のネグリジェに着替えている。あるいは列車が走行する様を近接で撮ったショットが2回出てくるが、ここでは夕日の角度が変わって、2つめのショットではとても美しい光線として露呈している。これはある種の時間経過を示すショットではあるが、実は終盤、ラシュモアのカフェ(今見ると大変おしゃれ)で教授とグラントが共謀するシークエンスでも似たような趣向のショットがある。ジェームス・メイソンら一行がやってきたのをグラントが教授に知らせると、教授がまずカフェに入っていく。そのあと、グラントが後を追うようにカフェに入っていく。二人がカフェに入るショットは全く同じ構図で撮られているが、後者のショットでは陽光が強く窓に反射しているのだ。実に短時間の合間に、雲が移動したのだろうか。このカフェのシーンやオークション会場のシーンでは、エヴァ・マリー・セイントがニュートラルな表情を浮かべていた次の瞬間には、目に涙を浮かべている。このような、カットを挟んで同じものが違っていること、このような「嘘」が、映画に散りばめられているのだ。
それにしても、エレベータのシーン、高明な飛行機のシーン、あまりに鮮やかなエンディング、何度見ても凄いとしか言いようがない。個人的には初見時から、ケーリー・グラントとエヴァ・マリー・セイントが林のなかで再会する場面の、グラントを映したカメラが後ろにトラックして二人が画面に収まるあの瞬間がとても好きで、今回もやっぱりそこが一番美しいと思った。