2021年4月25日日曜日

水を抱く女

 監督:クリスチャン・ペッツォルト

 ペッツォルトが、『未来を乗り換えた男』の主演ペアでもう一本撮った作品。そういえば『東ベルリンから来た女』→『あの日のように抱きしめて』でも同じカップルを使っていた。その時自分のなかでホットな役者を連続して使いたくなる人なのだろうか。

 本作は前作に比べると、かなり規模が小さく、90分のコンパクトな作品だ。前作が男女のラブロマンスを主軸としつつも、複数の印象的なサイドエピソードによってかなり多面的な作品に仕上がっていたのに対して、本作はストレートに二人のプラトニックなロマンスを魅惑的に描いた作品と言える。

 面白いのは、ウンディーネは超人的な存在であると同時に、かなり普通の人間として描かれている点だ。そしてウンディーネの視点から見た、相手のクリストフにも、どこか超越的な側面がある。例えば最初に二人が出会う場面では、観客にもわかるように、水槽のなかの潜水服を来た人間がクリストフの分身であることが示される。なので、ウンディーネという超人と人間世界の単純な二項対立ではなく、ウンディーネもまた人間的な側面をもち、クリストフもまた超越的な部分をもっているのである。
 それにしても、水槽が壊れ、水がバサーっとかかるシーンの古典的な手触りには驚嘆した(ペッツォルトは相当なシネフィル)。

 入水のシーンがあまり劇的ではないのが少し残念であった。
 あるいは、上述のカフェでの水槽のシーンのようなファンタジックな描写が、中盤以降は水中に限定されてしまうのが、個人的には物足りない。もっと陸上でもおかしな出来事がいっぱい起きてほしかった(ワインの染みも後付け感が)。
 とはいえ、全体としてものすごく完成度の高い大人のダーク・ファンタジーで、ペッツォルトの力量が存分に発揮されている。二人で肩を寄せ合って歩いている映像、ああいうのは日本で絶対撮れないだろうな、、と。