2023年1月4日水曜日

拘留 / 検察官 / レイプ殺人事件 / Garde a vue

 監督:クロード・ミレール

ミシェル・セロー、ロミー・シュナイダー

80年代の金字塔だろう。素晴らし過ぎる。

冒頭からこれでもかと降る雨が、窓を覆うなか、脱線に脱線を重ねる渋い尋問が続いていく。クローズアップとフルショットの構成の妙。カメラが引いたときの照明にもしびれる。いつしか雨は止んでいた。時折挿入されるイメージショット(少女の死体、灯台の光、あるいは霧笛の音)も抜群にカッコよく、またこうしたイメージの集積がミシェル・セローの「自白」を構成しているに違いない。この現実と虚構の戯れと倒錯は、次作の『死への逃避行』へと引き継がれる。

そしてロミー・シュナイダーの謎めいた魅力もすごい。真っ暗な部屋で語り合うシュナイダーと刑事。全編を通して、この映画の「尋問」はおしなべて「語らい」へと変貌していく。出てくる人間が全員幸せそうじゃない、というのが良い(大晦日の取り調べ室なのだから)。

夜明けに終わる映画としても忘れがたい。何から何まで最高だ。


あのこと

 監督:オードレイ・ディヴァン

中絶を題材とした映画は、近年でも『4,3,2』、『16歳の瞳に映る世界』など秀作が続いており、そして本作。共通するのは、手持ちカメラで一人称的ナラティブを徹底していく点である。正直いうと、(おそらくはヨーロッパでは相当なインパクトと影響を残していると思われる)『4,3,2』以降、中絶映画は手持ちカメラで被写界深度浅く、が定番になってしまっているのではないかと思ってしまうほどには、「またか、」となってしまった。画面サイズはスタンダードが選択されており、これでもかというほど世界が狭く捉えられる。上にあげた2作は、シスターフッド的な要素がフィーチャーされていたが、本作の主人公はそれに比べるとかなり孤立状態に置かれていると言って良い。上の2作は、そもそも妊娠をした女性とその協力者の関係性が突出して描かれていたのに対して、本作の場合は、「知り合いはいっぱいいるけど誰も積極的に協力してくれない」という意味で、突出した関係性は存在せず、ただ薄いつながりだけが複数あるということが露わにされている。しかしそれでも最後に反目していた寮の同級生が助けてくれるのであるから、そこには希望があるのかもしれない。

序盤に講義が終わったあとに三人で校舎の外の広場で陽光を浴びながらお喋りするショットは、彼女が着ているストライプシャツの発色が良く、陽光の加減も美しく、大変素晴らしかった。しかしそれ以降、即物的でショッキングな描写が続くものの、これぞというショットはなかったように思うし、大学生同士の関係性の描写にももっと工夫があって然るべきではないか。中絶映画で「ありながら」、冒頭から女子大生たちの性的欲望をかなり掘り下げている点は極めて新しいと言える。

2023年1月1日日曜日

ナイブズアウト グラスオニオン

 前作は「ギリギリオッケー」であったがゆえに「大変素晴らしかった」のだが、本作はあまり乗れない。
大ヒットを記録した知的なミステリー映画の続編ということで、前作をいかに上回るか、というところが製作陣(あるいは知的な脚本家ライアン・ジョンソン)のチャレンジであったに違いない。そして実際のところ、この映画は多くの点で「前作を上回っている」。色々とアップグレードされている。とりわけ映画の構成に仕掛けられた伏線とネタばらしのスケールにおいて。しかし、逆に言えば、前作に比べて「度が過ぎている」。
「さっきのあの場面は実はこうでした」というショットが延々と続く中盤はどうだろう。確かにライアン・ジョンソンは、単なる知的ミステリーオタクではなく、ショットの構成において抜群のセンスがある。しかしそうはいっても、やっぱりこれは単なる説明なのだ。これならば素直に、姉の復讐を誓うジャネール・モネイが大胆に変身していくアドベンチャースリラーにした方が良いじゃないか、とどうしても思ってしまう。求めるものの違いといえばそれまでだが。

また、ジャネール・モネイの変容ぶりは確かに物語の旨味として仕込まれてはいるが、前作ほどの心躍る感覚はない。それは、前作におけるアナ・デ・アルマスの変容ぶりが、その都度直面する危機に対して「体が勝手に、」式のヒッチコック的ハプニングによって駆動されていたのに対して、本作のジャネール・モネイは、あくまで「真実に向かって酒飲んで行きまっしょい!」式の全き能動性によって駆動されているからだ。これでは運動が躍動しないのだ。

もちろん、相変わらず良き中年男性としてのダニエル・クレイグの良さ、エドワード・ノートンの若々しい芝居、ジャネール・モネイの溌剌としたパフォーマンスは見ていて楽しい。人物が集まったときではなく、散り散りになったときこそ活きる空間設計と照明の妙にも感心するが。

(追記)
反復になるざるを得ない制約のなかで、それをいかに視覚的に豊かにするかに腐心したあとがある、という意見もあり、なるほどと思った。
https://twitter.com/HWAshitani/status/1607245547857137665

2022年12月29日木曜日

シャンドライの恋

 監督:ベルナルド・ベルトルッチ

主演:タンディ・ニュートン

冒頭はアフリカでの悲劇の描写。特段の台詞はなく、独裁者のものと思しきポスターを貼る作業、怒りを込めた歌、学校での突然の出来事。タンディ・ニュートンが空を見上げるアクションからローマへと場面転換。そこからは基本的にはデイヴィッド・シューリスとの密室的関係が綴られる。シューリスの一方的で独りよがりな求愛は成就しないが、その後はなぜか関係が改善していく。そこに、刑務所に収監されているというニュートンの夫の話が絡んでくる。

正直言って、大変偽善的なお話だと思うし、ニュートンの役柄もいささか無邪気すぎやしないか、という気もする。

とはいえ、美しいショットの構成、ディープ・フォーカスによって描かれる二人の関係性の変化など、画面の見どころは枚挙に暇がない。

ピンクの花びらが戸棚に置かれているのを見つけたニュートンは、それをコップに入れて寝る。アントニオーニ『赤い砂漠』のごとく、画面手前に花びらをなめ、眠るニュートンを切り取る。次のショットで、ピンクの傘をさす男性のショットが続く。
同じように、ニュートンがバーそそぐビールの泡が、そのまま床掃除の洗剤へとつながる。

あるいは、シューリスが開くコンサートのシーンも素晴らしい。子供たちが退屈そうに聞いている光景が少し笑えるのだが、その後はニュートンが郵便を取りに行き、彼女の不在に気付いたシューリスの視線をくみとったニュートンの友人が、急いでニュートンを探しに行く。一方部屋では子供たちが庭のサッカーボールを探しに行き、、というふうにみんなバラバラに行動を開始してしまう。それらが特定の帰結をもたらすわけではない、というのが良いじゃないか。どこか馬鹿馬鹿しくも、ローマの街の片隅の緩やかな時間の流れを感じさせるのだ。

ラストの突き放し方にも少し驚く。


2022年12月23日金曜日

パリ、13区

監督:ジャック・オディアール

脚本:セリーヌ・シアマ、レア・ミシウス、ジャック・オディアール
主演:ルーシー・チャン

主要登場人物のキャラクターが映画の最後までよくわからない。次の行動に全く予測がつかない。これが映画。これが映画の脚本。
マジで素晴らしい。フランス映画は黄金期にあるのではないか。

2022年12月19日月曜日

ファイブ・デビルズ

 監督:レア・ミシウス

主演:アデル・エグザルコプロス

匂いに敏感な少女が、特定の匂いをきっかけにタイムリープし、徐々に過去が明らかになるという構成がそこまで魅力的とは思えないのだが、画面で起きている出来事は抜群に面白くまったく弛緩することなく見ることができた。

構成の適否は置くとしても、匂いに敏感である少女の描写はこちらの好奇心をくすぐるし、母親であるアデル・エグザルコプロスがその才能に対して感激するどころか不安になるというところが面白い。前半はこの母親の神経質で内向的な感じと、娘の好奇心の赴くままに動き回る様子の対比がとても巧く描かれている。

後半になると、『隣の女』よろしく、あるいは『昼下がりの情事』よろしく、かつての恋人の帰還とそれによる秩序の混乱が描かれるのだが、たとえば凡庸な作家であれば住民が冷たい目で見てくるような描写をついつい入れたくなるところを、そうした直接的な描写を省き、周囲の人々の関係性の変化を描いていくところが素晴らしい。また、ジュリアの描写も抑制が効いていて、酒を探し回る描写などからはアルコール依存症を思わせもするが、それをやたら掘り下げることはない。群像劇ではないが、特定のわかりやすい設定に物語を収斂させない多元的なナラティヴになっているのだ。

断片的に良いシーンがたくさんあるが、「愛のかげり」の歌唱シーンが絶品だ。

ヴィッキーはタイムリープするたびに、路上で「目覚める」という運動を反復することになるが、最終的に湖で救出されたジュリアもまた、救急車内で「目覚め」、視界にかつての恋人の姿を認めることになるだろう。


2022年12月6日火曜日

さすらいの二人

 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ

アントニオーニらしい、縦構図の多用、粉塵や煙によるアクセントが横溢していながら、ヴェンダースの『まわり道』を思わせるような、アンニュイでどこか「素敵な」ロードムービーに仕上がっている。いや、アントニオーニがこんなに「面白く」「切なく」ていいのか?と思いながら見ていた笑

スペインやドイツなどを舞台とする豪華な設定であるが、とりわけ街路樹の美しさに目を奪われる。ニコルソンが「後ろを向いてごらん」と言って、マリア・シュナイダーが後ろを振り向くところのショットは唯一無二だろう。

終盤に『情事』を彷彿とさせるクレーンショットからの意表をついた長回しがあって、まったく見事なのだが、しかしこういうところが、アントニオーニらしいようでちょっと面白くしすぎじゃないか、という気がする。ハネケっぽいというか。